働き方改革の中で会計における「重要性の原則」の果たす役割

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働き方改革の中で会計における
「重要性の原則」の果たす役割

政府は、日本における労働の生産性向上とワークライフバランスを充実した社会の実現を目指し、2017年(平成29年)9月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」を厚生労働省から労働政策審議会に諮問させ、当該審議会より「おおむね妥当」との答申を受けました。 これを受け政府は、2018年(平成30年)6月29日に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」または通称「働き方改革法案」を正式に成立させたものです。

このような動きの中、日本公認会計士協会は、2017年(平成29年)3月31日会長声明として「昨今の働き方改革の議論を踏まえた決算に関する業務の在り方について」を公表し、「決算に関する業務に関わる多くの関係者の働き方の改善が、経済社会の持続的な発展に寄与するもの」との見解を示しています。 しかし一方で連結決算担当者については、四半期決算の導入、IFRSへのコンバージェンスに伴う度重なる会計基準の変更や更新により、作業は高度化・複雑化及びグローバル化しておりその作業負荷は増しているのが現状です。

私見となりますが、この相反する状況下で「重要性の原則」が問題解決のカギとなると考えるものです。 筆者は10年以上前に、ある企業で日本基準・IFRSの両方の連結決算の作業責任者をしておりました。当時は、日本基準とIFRSでのコンバージェンスが進んでおらず、修正処理も多く実質二つの連結決算を作業しているように感じていたものです。 両基準の連結決算はそれぞれ日本有数の監査法人による監査を受けていましたが、監査法人の担当者曰く、IFRSはプリンシプル・ベース(原則主義)による基準だから、と少額の期ずれ補正などについても厳格な修正を求められ、結果IFRSへの修正により膨大な作業日数が掛かった次第です。 今では考え難いこのような事例が起きた原因は、当時IFRSは例外的な処理に関する記述が非常に少なかったことにあると考えます。加えて、子会社の原則としての決算日統一の記述「実務上対応が不可能な場合のみ、3カ月以内の決算期の相違が認められている」(IFRS10.B92-B93)の記述が、後述のIFRSには「重要性の原則は認められていない」という誤解に拍車を掛けたと推察します。 子会社の決算日統一について、IFRS記載の「実務上不可能な場合」とは人数が十分でなく仮決算を行えない等の理由は認められない、との解釈が主流でした。 10年以上前の話ですが、このためIFRSにおいてはどんな少額な調整数値も適切な処理をしなくてはならない、との認識が大手監査法人の中でさえ、一部の方に持たれていたのではないかと推察するものです。

しかし現在はIFRSに対する理解が進み、IFRSが例外的な処理を明記していない理由は「例外処理をしてはならない」ということではなく、経営者が「重要性の基準」によって投資家の判断を歪めるほどの重要性は無いと判断した場合には例外的な処理を行い、その旨を記載すればよいということである、と多くの会計担当者は理解しています。 これを文章で明確にしたものが、IASBが2017年(平成29年)9月に公表したIFRS実務記述書第2号「重要性の判断の行使」及び公開草案「『重要性がある』の定義」です。 日本基準では先の「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」でも「重要性が無い場合を除き」と明記されています。 同様に、企業会会計審議会(ASBJ)は、2017年(平成29年)3月に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」を公表しておりますが、公表に当たって『「収益認識に関する会計基準」等の公表』との声明を出しています。 この中で、ASBJは、上記基準を財務諸表間の比較可能性の観点から、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れるとしつつも、一方で「重要性等に関する代替的な取扱い」として収益認識適用指針第92項から第104項でIFRS第15号における取扱いとは別に重要性に関する記載等、代替的な取扱いを定めている旨を改めて表明しているものです。

このように連結決算作業の高度化・複雑化及びグローバル化に伴い、担当者が直面している負荷増加につきましては、適切な「重要性の原則」の適用により無駄な工数を精査すること(例えば金額が少額な期ずれ補正や内部取引差異の原因分析等の必要性を検討すること)でいくらか解消できるのではないか、と考えられます。

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